養子縁組と聞くと、テレビドラマの世界の話のように感じるかもしれません。しかし実際には、「再婚相手の連れ子と養子縁組する」「孫を養子にして相続人を増やす」「子のいない夫婦が親族の子を引き取る」といった場面で、いまも珍しくない手続きです。

そして、養子縁組をすると相続関係はどう変わるのか。ひとくちに「養子」といっても普通養子特別養子の二種類があり、相続のルールはまったく違います。今日はこの「似て非なる二つの養子」について、相続の場面で押さえておきたいポイントを整理します。

普通養子は「二重の親」を持つ

普通養子縁組は、養親と養子のあいだに法的な親子関係を作る一方で、実親との親子関係は切れません(民法第809条で養子は嫡出子の身分を取得し、民法第727条により養親側との親族関係が新たに発生しますが、特別養子のように実方との親族関係を終了させる規定〔民法第817条の9〕がないため、実親との親子関係はそのまま維持されます)。

つまり普通養子は、養親と実親の両方の子どもとして扱われます。これは相続の場面でも同じで、

  • 養親が亡くなったら養子として相続人になる
  • 実親が亡くなっても実子として相続人になる

という、いわば「二重の相続権」を持つことになります。

普通養子は、

  • 再婚相手の連れ子と縁組する場合
  • 配偶者の親(義父母)と縁組する場合(婿養子・嫁養子)
  • 孫を養子にして相続人を増やす場合

などで利用されます。年齢制限はなく、成年同士の養子縁組も可能です。

特別養子は「実親との縁が切れる」

これに対して特別養子縁組は、原則として15歳未満の子について、家庭裁判所の審判によって成立する制度です(民法第817条の2、年齢要件は民法第817条の5)。普通養子との最大の違いは、実親との親子関係が完全に終了する点です(民法第817条の9)。

特別養子になると、戸籍も実親と切り離されたうえで、養親の実子として届出されます。相続の場面でも、

  • 養親が亡くなったら相続人になる
  • 実親が亡くなっても相続人にならない

という扱いです。実方との縁が法的に切れるため、相続は養親側だけ、ということになります。

特別養子は、虐待や経済的困窮など、実親による養育が著しく困難な事情のもとで、子の福祉を最優先に考えて行われる制度であり、普通養子とは目的も性格も大きく異なります。2020年4月の改正で対象年齢が原則15歳未満まで引き上げられました(同条1項)。

相続税の基礎控除では「養子の頭数」に制限がある

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されますから、相続人が多いほど控除額は増えます。そこで、かつては「養子をたくさん取って控除を増やそう」という節税策が問題になりました。

これを抑えるため、相続税法第15条第2項は、基礎控除の計算上カウントできる普通養子の数を制限しています。

  • 実子がいる場合 → カウントできる養子は 1人まで
  • 実子がいない場合 → カウントできる養子は 2人まで

民法上は何人養子にしても全員が相続人になりますが、相続税の世界では頭数が制限されるのです(特別養子は実子と同じ扱いなので制限の対象外、相続税法第15条第3項)。

なお、節税目的で行われた養子縁組であっても、当事者間に縁組の意思がある限り民法上は有効とされた最高裁判例(最判平成29年1月31日民集71巻1号48頁)もあります。「税対策の養子はそれだけで無効」と断じられているわけではない、という点も押さえておきたいところです。

連れ子養子は「再婚家庭」のよくある論点

再婚にともなって、配偶者の連れ子と養子縁組をするかどうかは、現代ではよくある相談です。養子縁組をしなければ、連れ子は再婚相手の相続人になりません。逆に、養子縁組すれば実親(前の配偶者)との関係も切れずに残るため、二重の相続権を持つことになります。

ここを誤解したまま遺言を残してしまうと、想定外の相続人配分になってしまうことがあります。連れ子の相続権は、戸籍上の養子縁組の有無で決まる、という点に注意が必要です。

まとめ

項目 普通養子 特別養子
実親との親族関係 残る 終了する
養親の相続権 あり あり
実親の相続権 あり なし
成立方法 当事者の合意+市町村への届出 家庭裁判所の審判
対象年齢 制限なし(成年養子も可) 原則15歳未満
相続税基礎控除の養子数制限 制限あり 実子と同じ扱い

養子縁組は戸籍上の手続きにとどまらず、相続人の範囲や相続税にまで影響する大きな出来事です。とくに再婚や事業承継のタイミングで養子縁組を検討する際には、相続全体への波及までよく考えておく必要があります。

ご自身のケースに当てはめての判断は、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】養子縁組が相続登記・相続税に及ぼす実務的影響

ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

不動産登記実務の観点

養子縁組が関係する相続登記では、戸籍の収集・読み解きでとくに注意すべき点があります。

普通養子は、養親側の戸籍にも実親側の戸籍にも親子関係が記録されます。被相続人が養親の場合、養子の戸籍を遡るときに「養子縁組事項」の確認が不可欠で、後に養子離縁が行われていなかったかも合わせて確認することになります。離縁により養親子関係が終了していれば、その時点で相続権が消滅しているため、現在戸籍だけでなく除籍・改製原戸籍まで遡って判断する必要があります。

特別養子の場合、戸籍上は実親の表記がなく、養親の実子と同様の続柄で記載されます。相続登記の場面では、養親側の戸籍を追えば足りる一方、被相続人が「実親」だったときには特別養子であった子は相続人にならないため、その点を戸籍の続柄記載や審判確定の記録から正確に読み取らなければなりません。

なお、配偶者の連れ子と養子縁組をしていない場合は、戸籍上「親族」ではあっても「親子」ではないため、原則として相続人にはなりません。連れ子養子があった場合の縁組事項は、配偶者側の戸籍と連れ子側の戸籍の両方に記録されますので、抜け漏れなく確認することが求められます。

税務上の観点

相続税における養子の取扱いは、民法上の効果とは別の観点で整理する必要があります。

基礎控除の養子数制限(相続税法第15条第2項)は、養子縁組による租税回避を防ぐための制度です。実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までしかカウントされません。生命保険金・死亡退職金の非課税枠(同法第12条第1項第5号・第6号、500万円×法定相続人の数)を計算するときも同じ制限がかかります。

ただし、相続税法第15条第3項は次の養子を「実子とみなす」と定めており、頭数制限の対象外となります。

  • 特別養子
  • 配偶者の実子で被相続人の養子となった者(いわゆる「連れ子養子」)
  • 代襲相続人となる養子

そのため、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合は、相続税の計算でも実子扱いとなり、頭数制限の影響を受けません。節税目的というより、家族関係の整理として行われるケースが多くなる理由のひとつです。

なお、相続税の各種特例(小規模宅地等の特例〔租税特別措置法第69条の4〕、配偶者の税額軽減〔相続税法第19条の2〕)や、相続開始前の贈与財産の加算規定の適用判断も、相続人の範囲が変われば結論が変わることがあります。養子縁組は相続税の計算全体に波及しうるため、最終的な税額計算は税理士による個別の確認が必要です。