実家を相続したら、いつのまにか兄弟と「共有名義」になっていた。「リフォームしたいのに、弟と連絡が取れず話が進まない」「賃貸に出したいのに、姉が反対して動けない」――。共有名義の不動産は、いざ動かそうとしたときにつまずきやすい財産です。

そんな状況を打開するため、令和5年(2023年)4月1日から、民法の「共有」に関するルールが大きく改正されました。共有不動産を「動かす」ハードルが少し下がっています。今回は、改正の要点と、共有不動産で困ったときに知っておきたい選択肢を整理します。

そもそも「共有」とは

不動産の「共有」とは、一つの不動産を複数の人が「持分(もちぶん)」という割合で持ち合っている状態をいいます。たとえば兄弟3人で実家を相続して、3分の1ずつの持分で登記すれば、それが共有です。

ここで誤解されやすいのが、「共有持分」は「不動産の特定の場所」を所有するわけではないという点です。長男が玄関、次男が台所、三男が居間――というように区切って持つのではなく、家屋や土地の全体について「3分の1の権利を持つ」という考え方です。

そのため、共有不動産を実際に使ったり、修理したり、売ったりするときは、共有者全員のあいだで「誰がどう決めるか」というルールが必要になります。ここで出てくるのが、改正された民法の規定です。

改正前の壁:「全員一致」が共有を硬直させていた

改正前の民法では、共有物について何かをするときの判断基準は、おおまかに次の3段階に分かれていました。

  • 保存行為(現状維持の修繕など): 共有者の1人で単独でできる
  • 管理行為(短期の賃貸借など): 持分の過半数で決める
  • 変更行為(売却・大規模リフォームなど): 共有者全員の同意が必要

問題だったのは、「変更」と「管理」の境目があいまいで、リフォームのような行為が「変更」と評価されると、共有者1人でも反対すれば前に進めなかった点です。さらに、共有者の中に「所在不明・連絡不能」の人がいると、その同意を取りようがなく、結果として共有不動産が「塩漬け」になっていました。

改正のポイント:ハードルが下がった

令和5年4月1日施行の改正民法では、共有のルールが次のように整理されました。

1. 「軽微な変更」は持分の過半数でできるように

形状や効用に著しい変更を伴わない範囲の改良行為(たとえば外壁塗装、屋根の葺き替え、給排水設備の更新など)は、「軽微な変更」として共有者全員の同意ではなく、持分の過半数で決められるようになりました(民法251条1項・252条1項)。

ここでいう「持分の過半数」とは、頭数ではなく持分の割合の合計が過半を超えるかで判断します。3分の1ずつ3人で共有していれば、2人(合計3分の2)の同意で軽微変更を進められる計算です。

2. 賃貸借に明確なルール

短期の賃貸借(建物の賃貸借は3年以内、土地の賃貸借は5年以内など)は、持分の過半数で結べることが条文上はっきり書かれました(民法252条4項)。それを超える長期の賃貸借や、借地借家法の適用がある建物賃貸借は、引き続き「変更行為」として全員一致が必要です。

3. 所在等不明共有者がいても進められる新制度

共有者の中に「所在等不明共有者」(連絡が取れない・行方がわからない人)がいる場合、裁判所の決定を経て、その人の同意なしに変更や管理を進められる仕組みが導入されました(民法251条2項・252条2項)。

裁判所に申立てをすると、公告などの手続きを経たうえで、

  • 所在等不明共有者を除いた残りの共有者全員の同意で「変更」ができる
  • 所在等不明共有者を除いた残りの共有者の持分の過半数で「管理」を決められる

と認めてもらえます。

それでも動かないとき:「持分」を取得・譲渡する制度

改正民法では、所在等不明共有者の「持分そのもの」をやり取りする新制度も整えられました。

1. 所在等不明共有者の持分の取得(民法262条の2)

裁判所に申立てをして、所在等不明共有者の持分を「お金を払って取得」できる制度です。時価相当額を供託したうえで、その共有者の持分が申立人に移ります。これにより、長年塩漬けだった共有不動産の権利関係を整理できます。

2. 所在等不明共有者の持分の譲渡権限の付与(民法262条の3)

不動産全体を第三者に売却したいけれど、所在等不明共有者がいて全員の同意が取れない――そんなときに、裁判所の決定で「所在等不明共有者の持分を、ほかの共有者が代わって譲渡できる権限」をもらえる制度です。譲渡代金から、所在等不明共有者の持分相当額が供託されます。

これらの制度は、「全員の同意が取れないから何もできない」という長年の問題を、裁判所の手続きを介して解消するための仕組みです。手続きは複雑ですが、共有が原因で動かせなかった不動産の打開策として活用が広がっています。

それでも共有を解消したいとき:共有物分割

そもそも共有という関係を解消したい場合は、「共有物分割」という方法があります。改正民法では、次の方法が条文に明記されました(民法258条)。

  • 現物分割: 不動産自体を物理的に分ける(土地を分筆して持分相当を取得するなど)
  • 賠償分割(価格賠償): 一人が不動産を取得し、他の共有者に持分相当のお金を払う
  • 競売による換価分割: 競売にかけ、代金を持分割合に応じて分配する

まずは話し合い(協議分割)で決めるのが原則ですが、協議が整わないときは裁判所への分割請求(裁判分割)という選択肢もあります。

まとめ

民法改正によって、共有不動産は「動かしやすく」なりました。とくに、所在等不明共有者がいても手続きが進められるようになったのは、相続で長年放置されてきた不動産にとって大きな変化です。

ただし、新制度の利用には裁判所の手続きが必要で、書類の準備や審理に時間もかかります。共有不動産で困りごとが出ているなら、まずは持分の状況と、誰が所在不明なのかを整理することから始めるとよいでしょう。具体的な手続きについては、お近くの司法書士にご相談ください


【さらに深掘り】共有不動産を「動かす」登記実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

ここからは、本文で触れた共有不動産のルール改正が、実際の登記簿(登記記録)にどのように反映されるかを、不動産登記実務の観点から整理します。

1. 共有名義は「甲区」を見れば一目でわかる

共有不動産かどうかは、登記事項証明書の「権利部(甲区)」を見ればわかります。所有者の欄に複数人の氏名が並び、それぞれに「持分○分の○」と記載されていれば共有名義です。

たとえば、

順位番号 1
登記の目的 所有権移転
原因     令和〇年〇月〇日相続
所有者   〇〇県〇〇市……
        持分3分の1 山田太郎
        持分3分の1 山田次郎
        持分3分の1 山田三郎

このように記載されます。共有名義の不動産は、原則として持分ごとに権利を動かすことができ、登記簿でもその移動が「持分一部移転」「持分全部移転」といった目的で記録されていきます。

2. 軽微変更のリフォームと「建物の表示」

本文で触れた「軽微変更」にあたるリフォームは、通常は建物の同一性を失わせない範囲のものが想定されており、登記簿の表題部に変更を加える必要はありません。

ただし、増築や用途変更(住宅→店舗併用住宅など)を伴う場合は「建物の表示変更登記」が必要となり、これは表題部に関する登記なので土地家屋調査士の業務領域です。共有者の過半数で実施できる軽微変更であっても、内容によっては表題部の手続きが派生する点に留意が必要です。

3. 共有物分割と登記の組み合わせ

共有物分割の方法によって、必要な登記の種類が変わります。

  • 現物分割:土地の場合、まず土地家屋調査士が「分筆登記」を入れたうえで、各共有者の持分相当が単独所有となるよう「共有物分割」を登記原因とする所有権移転登記を行います。
  • 賠償分割(価格賠償):取得する一人に向けて、他の共有者から「共有物分割」を登記原因とする持分全部移転登記を行います。代金支払いと登記を同時に進めるのが通常です。
  • 競売による換価分割:競売手続のなかで売却され、買受人へ所有権移転登記がされます。

登記原因が「共有物分割」となる場合、譲渡所得税や登録免許税の取扱いが「売買」と異なり得ますので、税理士への相談と併せて進めるのが安全です。

4. 所在等不明共有者の持分取得・譲渡で押さえる書類

民法262条の2(持分取得)・262条の3(持分譲渡権限)に基づく登記では、裁判所の裁判書が登記原因証明情報の中核になります。

  • 持分取得(民法262条の2)の場合、登記原因は「○年○月○日民法第262条の2の裁判」(日付は裁判の確定日)となり、申立人が単独で持分移転登記を申請できます。確定証明書付きの裁判書の謄本が登記原因証明情報として機能し、相手方の登記識別情報や印鑑証明書は不要です。
  • **持分譲渡権限の付与(民法262条の3)**は、譲渡権限の付与を受けた共有者が第三者へ不動産全体を譲渡する仕組みなので、最終的な登記原因は「売買」など実際の譲渡原因となり、裁判書はその権限を裏付ける書類として添付するイメージです。

いずれも供託金の供託書や、共有者の戸籍・住民票等の関係書類を整えておくことで、後日の権利関係の説明がしやすくなります。

5. 共有持分の相続が重なって「枝分かれ」するケース

実家を兄弟3人で共有していたが、そのうち1人が亡くなり、その持分が3人の子に相続されて再び共有が枝分かれする――というケースは少なくありません。共有者が3人から5人、7人と増えていくと、持分の管理・処分はますます難しくなります。

このような共有の「枝分かれ」を防ぐには、共有関係が生じた段階で(または相続が発生した段階で)、早めに共有関係を整理しておくのが実務上の鉄則です。改正民法で動かしやすくなったとはいえ、共有者が少ないうちに整理するに越したことはありません。