「いつかは自分の会社を持ちたい」──その夢を実現しやすくする動きが、ここ数年で大きく進んでいます。

2024年以降、定款認証制度の見直しオンライン申請の標準化が進み、起業のハードルは着実に下がりました。今回は、最近の制度改正のポイントと、実際にかかる費用・期間の目安を整理します。

定款認証とは

株式会社を作るとき、会社のルールブックである定款を公証人に認証してもらう必要があります(公証人法第62条の2)。

この認証は株式会社特有の手続きで、合同会社(LLC)では不要です。ここが、合同会社のほうが「手軽」と言われる理由の一つでした。

最近進んでいる見直し

1. 定款認証手数料の引下げ

従来、株式会社の定款認証は一律5万円でした。

2024年以降、資本金の額や規模に応じた区分が導入され、小規模な会社については手数料が引き下げられる制度運用になっています。

  • 資本金100万円未満:1万5,000円〜3万円程度
  • 資本金100万円以上300万円未満:3万円〜4万円程度
  • それ以上:従来どおり5万円

※ 金額は最新の実務運用によります。必ず公証役場にご確認ください。

2. 面前認証のオンライン化

従来、公証人との面談は対面が原則でした。

現在はテレビ電話による認証が広く使われ、全国どこからでも公証人とつながる形が一般化しています。地方在住でも、公証役場まで出向かずに済むケースが増えました。

3. 電子定款で印紙代4万円が不要に

紙の定款には印紙税4万円がかかりますが、電子定款にすれば印紙税はかかりません

電子定款はPDFに電子署名をして提出する形式で、司法書士や行政書士が作成する場合は標準的に電子化しています。個人で紙定款を作るより、専門家依頼のほうが総額で安いケースが多い理由はここにあります。

株式会社設立の費用・期間のめやす

現在の一般的な目安です(小規模な株式会社の場合)。

項目 金額のめやす
定款認証手数料 1.5万〜5万円(資本金による)
定款に貼る印紙 0円(電子定款の場合)
登録免許税 15万円(資本金の0.7%、最低15万円)
司法書士報酬 5万〜10万円程度
合計(専門家依頼) 約25万〜35万円

期間は、書類が揃ってから1〜2週間程度で設立まで進めるのが一般的です。

合同会社(LLC)という選択肢

株式会社以外に、合同会社を選ぶ起業家も増えています。

項目 株式会社 合同会社
定款認証 必要 不要
登録免許税 15万円〜 6万円〜
設立費用の目安 25万〜35万円 10万〜15万円
対外信用 高い やや劣る場合あり
将来の上場 可能 不可(株式会社に組織変更が必要)

「まずは身軽にスタートしたい」という方には、合同会社が有力な選択肢です。後から株式会社へ組織変更することも可能なので、柔軟に考えられます。

設立後も続く「登記のメンテナンス」

会社は作って終わりではありません。

  • 本店移転、事業目的の追加、資本金の増減
  • 役員変更(任期ごと)
  • 代表取締役の住所変更

これらは都度、商業登記の変更手続きが必要です。設立をお任せいただいた方には、その後のメンテナンスもシームレスにご提案しています。

おわりに

起業環境は、10年前と比べて格段にやりやすくなりました。一方で、株式会社がいいか、合同会社がいいか資本金をいくらにするか事業目的をどう書くかなど、初期設計が将来に響くポイントも多くあります。

「株式会社か合同会社か、事業状況を踏まえてどちらが合うか」──こうした方向性の整理を先にやっておくと、設立登記の段階で迷う場面が減ります。


【さらに深掘り】設立時の初期設計チェックリスト

ご注意 以下は執筆時点(2026年4月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。法改正・新通達で取扱いが変わること、また個別事案では事情により判断が分かれる論点も含みます。実務でそのまま用いる前に必ず最新情報をご確認のうえ、個別事情に応じて専門家にご相談ください。

設立の費用と期間は前段でまとめたとおりです。ここでは定款の作り込みと、「後で変えると面倒だが設立時なら無料同然」という項目を中心にお話しします。

1. 取締役会設置か、非設置か──最初の分岐

これが一番の初期設計ポイントです。

項目 取締役会設置 取締役会非設置
取締役人数 3名以上必須 1名でも可
監査役 原則必要 任意
意思決定 取締役会決議 株主総会 or 取締役の過半数
登記事項 代表取締役のみ住所登記 取締役全員の住所登記
運営コスト 定期的な取締役会議事録が必要 手続き簡素

1人会社・同族会社は、取締役会非設置が圧倒的に使い勝手がよいです。一方、**将来の資金調達(VCからの出資、上場)**を視野に入れるなら、最初から取締役会設置にしておくほうがスムーズです。

一度決めた後の変更も可能ですが、機関設計変更の登記+定款変更決議が必要になるので、初期設計で腹を決めておくのがおすすめ。

2. 事業目的の書き方──「広めに・具体的に」

事業目的は登記簿に公示されるため、適当に書くと後で困ります。

3つの鉄則

  1. 現在やることだけでなく、3〜5年以内の計画まで盛り込む → 目的追加は登録免許税3万円+司法書士報酬で数万円かかる
  2. 許認可が絡む業種は、許可要件に合う文言で書く → 建設業・宅建業・古物商・運送業等、監督官庁が目的の文言をチェックします
  3. 「前各号に附帯関連する一切の業務」を最後に入れる → 補助的業務のために目的追加をしなくて済む

よくある失敗例

  • 「インターネット関連事業」だけ書いて、後で金融商品仲介を始めたくなった
  • 「飲食店の経営」で保健所OKだが、テイクアウト・EC販売で追加目的が必要になった
  • 古物商許可を取ろうとしたら、目的に古物売買の文言がなく許可が下りない

ここは司法書士に具体的事業プランを伝えていただくのが一番早いです。雛形ではなく、事業に合わせた目的文案を作ります。

3. 資本金の決め方──税務との連携が必須

資本金は登録免許税(資本金の0.7%、最低15万円)に直結するだけでなく、以下の税務インパクトがあります。

  • 資本金1,000万円未満:原則2年間、消費税免税事業者
  • 資本金1,000万円以上:初年度から課税事業者
  • 資本金1億円超:法人税の中小企業特例が使えない

「資本金100万円と1,000万円では、設立時点の対外信用と税負担が全然違う」──ここは税理士と必ず連携してください。登記だけで決められる話ではありません。

よくある設定:

  • 資本金100万円:個人事業からの法人成り、小規模スタート
  • 資本金300〜500万円:許認可要件(人材派遣・有料職業紹介2,000万円等の例外あり)クリア狙い
  • 資本金900万円:「消費税免税ギリギリ」狙い、ただし1,000万円以上の対外信用との天秤

4. 発行可能株式総数と発行済株式数

設立時に決める「発行可能株式総数」は、将来の増資・分割を見越して発行済株式数の4倍程度に設定するのが定番です(非公開会社は4倍ルールなしですが、慣例的に)。

  • 発行済 100株、発行可能 400株が標準形
  • 将来の持株比率変動(新株発行での希薄化)を視野に

後で発行可能株式総数を増やすにも定款変更+登記が必要なので、最初に広めに

5. 公告方法の選択

  • 官報掲載(デフォルト):決算公告で年間6〜7万円
  • 電子公告:自社サイトに掲載、年間5千円〜1万円(調査機関費用、決算公告は不要)
  • 日刊新聞紙:高コストで中小企業には不向き

設立時に電子公告を選ぶだけで、決算公告のコストを10分の1にできます。これは地味に効く。

ただし、電子公告にはURL登記が必要で、会社HPを持たない時期は官報のほうが楽。HP運用を始めたタイミングで定款変更が現実的です。

6. 現物出資を使うかどうか

個人事業からの法人成りで、パソコン・車両・在庫などを現物出資する手もあります。

  • 総額500万円以下なら検査役調査不要(会社法33条10項1号)
  • 個人事業から会社への資産移転を、現金の動きなく実現できる

一方、取得税・個人側の譲渡所得課税が絡むので、税理士との税務確認が必須です。

7. 設立後すぐに必要になる手続き

設立登記が終わった直後、次の手続きが連鎖的に発生します。

  • 法人設立届出書(税務署・都道府県・市区町村)
  • 青色申告承認申請書(2ヶ月以内、絶対に忘れない)
  • 源泉所得税納期の特例申請
  • 社会保険・労働保険
  • 法人口座開設

設立登記と並行して、提携税理士と連携するのが一番スムーズです。設立段階からこの段取りまで見通しておくと、決算月までの体制が滑らかに整います。

8. 参考条文

  • 会社法26条〜103条(設立)、326条〜328条(機関設計)、331条(取締役の資格)
  • 会社法施行規則95条(設立登記事項)
  • 商業登記法47条(設立登記)

【さらに深掘り】設立時の税務インパクト試算

ご注意 以下は執筆時点(2026年4月)の税制に基づく一般的な目安です。税制改正で扱いが変わるほか、業種・地域・個別事情で結論が変わります。実際の判断は必ず最新税制と個別事情を踏まえ、税理士にご確認ください。

1. 資本金で決まる4つの税務ライン

資本金 影響する税目
1,000万円未満 設立後2期免税(消費税)、法人住民税均等割最低額
1,000万円以上 設立初年度から消費税課税事業者、均等割が増える
1億円以下 法人税の中小企業特例(軽減税率・各種優遇)対象
1億円超 中小企業特例なし、外形標準課税(法人事業税)対象

900万円」がよく選ばれるのは、消費税2期免税+均等割最低額の両取りを狙った設定です。

2. インボイス制度との関係(2023年10月開始)

設立2期免税の優位性が、インボイス制度で部分的に薄れました。

  • 取引先がインボイス発行を求める → 設立直後でも課税事業者選択届出が必要に
  • BtoC中心(飲食・小売)なら従来どおり免税メリット大
  • BtoB中心(受託開発・コンサル)なら初年度から課税事業者が現実解

業種で判断が完全に分かれます。

3. 法人住民税均等割の地域差

資本金 従業員50人以下 従業員50人超
1,000万円以下 約7万円/年 約14万円/年
1,000万円超〜1億円以下 約18万円/年 約20万円/年
1億円超〜10億円以下 約29万円/年 約53万円/年

赤字でも発生する固定費。資本金1,000万円の壁はここでも効きます。

4. 役員報酬の決め方

設立から3ヶ月以内定期同額給与として決定(法人税法34条1項1号)。これを外すと損金不算入になり、法人税負担が一気に増えます。

判断要素:

  • 法人税率(中小企業:所得800万円以下15%、超過部分23.2%)
  • 個人所得税・住民税率(累進)
  • 社会保険料(労使折半でも実質本人負担)

目安:所得800万円ラインを意識し、超過部分は法人留保が定番設計。ただしオーナー一人会社では家族構成・将来資金計画で結論が変わります。

5. 現物出資の譲渡所得課税

個人事業からの法人成りで車両・PC等を現物出資する場合:

  • 個人側で譲渡所得課税が発生(簿価ではなく時価評価)
  • 取得時から減価償却した未償却残高との差額が課税対象
  • 中古車・パソコン等は実際は値下がりしているケースが多く、課税は限定的

ただし営業権を現物出資すると一気に金額が大きくなり、税負担も増大。「事業全体の現物出資」は税務確認必須。

6. 設立直後の税務届出スケジュール

届出 期限 提出先
法人設立届出書 設立日から2ヶ月以内 税務署・都道府県・市区町村
青色申告承認申請書 設立日から3ヶ月以内 税務署
給与支払事務所等の開設届 開設から1ヶ月以内 税務署
源泉所得税納期特例の申請 適用受けたい月の前月末 税務署
棚卸資産評価方法の届出 確定申告期限まで 税務署
減価償却資産償却方法の届出 確定申告期限まで 税務署

青色申告承認申請を忘れると、欠損金繰越(10年)・少額減価償却資産特例等が使えず、長期的な税負担差は数百万円単位になり得ます。

7. 創立費・開業費の繰延資産化

設立前の調査費・印紙代・登記費用、設立後営業開始までの広告費・名刺代等は、

  • 繰延資産として資産計上
  • 任意償却(好きなタイミングで全額損金算入)が可能

黒字化した期で一気に償却するのが税務上有利。設立期は手元現金を残しつつ、利益が出てきた期に費用化できます。

8. 参考条文

  • 法人税法34条(役員給与)、66条(税率)
  • 消費税法9条(小規模事業者免税)、附則関連
  • 地方税法52条(法人住民税均等割)
  • 所得税法33条(譲渡所得)